週刊大阪日日新聞

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2022/4/23

「人」に振り切る経営 生鮮食材専門店 八百鮮

「逆張り戦略」で35倍の成長


▲在庫を持たず「鮮度」にこだわった商品が並ぶ

 業務効率化、マニュアル化、無人化、そしてDX−。現代のほとんどの会社で成長のために欠かせないものとして認識されているワードだ。しかし、これらと正反対に現場の社員に裁量を委ね、徹底的に「属人化」に振り切りながら、年商を創業時の1億円から10年強で35億円にまで伸ばし、東証一部上場企業のグループになるまで急成長している会社がある。しかもIT企業でもコンサル業でもなく「八百屋」でだ。なぜ「常識と真逆のやり方」で成功できるのか、興味を持った私は彼らに密着することにした。

驚きの値付け

 「バナナ1袋70円、2袋なら90円」。「舞茸1個でも2個でも3個でも100円」。福島区・野田新橋筋商店街内の八百鮮野田本店に初めて訪れた時の衝撃を忘れることはできない。これらの商品を市場から仕入れ、値付けをしたのは店舗の一社員。そして、商品とその売り方、値段は「一期一会」。事実、「荷物になるからバナナはまた明日来て買おう」と思った私は二度と「2袋90円」を目にすることはなかった。ちなみにグループの違う店に行っても同じ商品があるとは限らない。もしあったとしてもその売り方や値段は全く異なるという。

 一般的に小売業界は「人に投資をしない」と言われている。大手スーパーで上記のような値付けを店長やまして現場の社員に任せられるはずはなく、何をいくらでどう売るかはすべて本社が管理している。現場では「効率」が最優先され、自動化や無人化の勢いが止まることはない。はっきり言えば「その店らしさ」や「その人らしさ」は二の次だ。一方、八百鮮は効率とは相反する「属人的」な商売を貫いている。経験年数も浅い社員に店の一部をまるまる託すというリスキーな仕組みが、同社の最大の特徴であり成長の理由でもある。

市場は人間関係

 少し肌寒さの残る3月の暮れ。朝6時の大阪市中央卸売市場は、果物のみずみずしい香りと人の活気で溢れる。私は、八百鮮空堀店の社員・渡邉叶さん(入社3年目)の「仕入れ」に同行させてもらった。

 「仕入れはどれくらいで覚えたんですか」「僕は1カ月くらいかなぁ。何より大事なのは市場の人と良い関係を作ること。こっちは弱腰過ぎても生意気すぎてもあかん。ココ(市場)の人にはすぐ見抜かれるんです」。真剣な目つきで箱の中のミカンの状態を確認し、仲買業者と談笑しながら交渉を進めていく。


▲「配置一つで売れ行きが変わるんです」と話す渡邉さん

 「野菜や果物の知識はどこで」「全部市場で教えてもらいました。八百屋って天気や季節、社会情勢に左右されるんですよ。例えば、雨が続いた日の市場に並んでいる品物は質が良くなかったり、今は輸入モノが値上がりしていたり…日々変化しているんです。これって学校の勉強みたいに座って学べるものじゃなくて、商品のことをよく知る市場の人に日々教えてもらって、そして自分の目で確かめて、経験で覚えざるを得ないんですよね(笑)」。毎日市場に通い、人間関係を築き、知識を蓄えていく。驚くほどにアナログなやり方だ。

昭和なコミュニケーション

 店に着いてからは怒涛(どとう)の荷下ろしと売り場作り。社員は仕入れの段階でその日の値付けと売り方をある程度決めておき、品物が店に届くと同時にそのイメージを具体化していく。

 朝が早いので時間の感覚がおかしくなるが、10時に開店してからが本当のスタート。売り場やお客さんの動向を見ながら、適宜ポップを書き替え、品出しを行い、売り場を整える。そしてお客さんとのコミュニケーションも活発だ。「お兄ちゃん、今日あれ入ってるか?」「おばちゃんが言うてたもん、仕入れてきたで」。20代の私が経験したことがないやり取りがそこにはあった。絵本の世界で見た「商店街の八百屋さん」だ。

在庫はその日に売り切る

 八百鮮では鮮度を保つために在庫を持たずに仕入れた商品はその日中に売り切るという絶対ルールがある。「無茶な買い付けをやってしまうこともあります。ミカン1000キロ買ってもうた時はめっちゃ大変でした(笑)。その日中に売り切るためにスタッフ全員一致団結して、普段1キロ袋で販売するところを5キロ袋にしたりと工夫しました。大変でしたけど、こうやって自分の売る力が身に付いてきました。ゲーム感覚でレベルアップしてきた感じですね」。

 閉店間際には面白い光景が広がることも。スタッフが店頭に立ち、「まいど! まいど!」と言いながら次々とやってくる来店客に自ら野菜を渡していく。まるでティッシュ配りのようだ。こんなこと、大手スーパーでやったら謝罪会見ものだろう。でも八百鮮では「お兄ちゃんが勧めるならきっとおいしいんやろうなあ」となぜか皆笑顔なのだ。

 効率化、合理化が求められるこの社会で、どうして彼らのような会社が伸び続けられるのか、正直不思議に思う点もまだ多い。

 「ここだと自分らしく働けるんですよね。自分らしさを肯定してくれる環境だから頑張れるんですよね」。この言葉に全てが凝縮されている気がした。

八百鮮からのまなび

「属人的に振り切ることで
社員一人一人に責任感が芽生え、
結果的に高収益を生み出す」

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